これは実際に通って頂いた方の話。
頭や顔を強くぶつけてから、忘れた頃に頭痛や首の不調が出てしまうという方にもこんなことが起こっている可能性があります。
ぶつけた心当たりのある方は、今回趣向を変えてストーリー形式でお伝えしていきますが、
最後までお付き合い頂ければ幸いです。
マンションを階段で上がった2階にある目立たない怪しげな玄関の扉を開けると、
彼女はまず当たりを見回し、何かを探している仕草をみせる。
次に足元に気にしながら壁を伝い、椅子に腰掛け、靴を脱いだ。
そう、彼女は靴を脱ぐときによろけて転ばないように捕まるところを探していたのだ。
捕まり、椅子に腰掛ける動作が当たり前になっていたのだろう、ため息混じりにその歯がゆい自分の動作にうんざりしている仕草と共に靴を脱ぎ、重い二酸化炭素を一気に吐き出したのだった。
私が彼女にここまで来てくれた努力を労い、手短に挨拶を済ませると、彼女は堰を切ったようにこれまでの話しを語り出してくれた。
その内容は…
元々左の股関節に痛みがあり、私のところに通ってくれて良くなりかけていたが、
昨今の感染事情もあり伝えていた自宅でできる運動療法やボディケアで
なんとか凌ごうとしていた。
『あまり人に頼らずになんとか治そう』
そう考えていたと話してくれた。
しかし今から3ヶ月まえ、彼女は全身にわずかに疲れを感じながら外を歩いていたときに、
右の方へよろめき、転倒した。
ぶつけたのは右の頬骨、右の肋骨の浮肋という肋骨の下の部分。
そして大腿骨の大転子という部分だ。
この大転子というのは、「股関節」という名前で多くの人が指差す場所で、腰の横当たりを触って突出しているところに当たる。だからこそ、横から転ぶと、この部分がぶつかりやすくもある。
この大転子を強打すると、歩こうとする際に身体の平衡を保つ『腸骨』という、
車でいうタイヤにあたる場所でもある大腿骨から、地面からの力を前に進ませようとする働きにちょっとした誤差を生むことになる。
言い換えるなら、車のタイヤを片方だけ歪ませる様なこと。
これを続けると、燃費は悪くなり、次第に他の部分まで故障が波及していくことになる。
そんな大転子強打に加えて頬骨の強打、あるいは頭部の強打も、大転子をぶつけた時のようにその影響がどこかへ出ることになるのだ。
この場合の影響は頚椎という首の骨。
特に姿勢を保とうとするときに、よく三半規管がバランスを保つ、ということは知らない人も少なく無いと思うが、姿勢をコントロールしようとする役割は他にもある。
視力は平衡感覚に直結しているため、片側の眼が悪いと距離感が掴めずにフラついたり感覚的に「恐る恐る」の状態になる。また、頭を平行に保つことは、この眼の見えている景色でバランスを取っているところもあるから、頭が平行でなくなることはヒトとして避けるための機能を備えている。
それが三半規管である。
この三半規管と視力の左右差は頭を平行に保てなくなると、眼や三半規管の電気信号としての神経伝達に左右異なる速度で影響を与えてしまうことになるため、見ている景色が歪み、怖く感じることになる。
考えてみると、高所で平均台の上に乗り、歩こうとしたら肩に力が入り、何かに捕まりたくなったり手をひらげでムダに力を入れてしまうことになることは、想像するに難しくない。
このような『顔を強くぶつける、頭を強打する』ということをしてしまうと、多かれ少なかれ大変生きづらさを感じる制限をうけてしまうことになっていく事態を彼女は知らずのうちに体験していたのだった。
その様なことになってるとはつゆ知らず、3ヶ月ほど外出もほとんどせず、彼女は次第に右脚の力が入らなくなり、動くたびに痛みを感じるようになっていよいよ重い腰を上げて来てくれたのだった。
流石に3ヶ月も動かなければ、筋力の回復にはその倍から数倍かかってしまう。
一回の施術によって、転倒によるダメージを受けて平行機能がおかしくなった部位の不都合な損傷は対処したが、まだふらつく感じは残っている。
しかし、帰りの靴を履く仕草に不安げに捕まりどころを探すことは無くなり、痛みなく歩けそうとの言葉を残していった。
顔をぶつけてからの不都合な身体の事情からの復帰は、ここから始まることを曇った視界から雲が強い風に吹かれて晴れていく光景を見ているかのう様に彼女の網膜にはうつっているのだろうと私には思えた気がした。
ということで、ストーリー形式でお伝えしていきましたが、このように転倒によって起きる影響は多岐にわたります。雪による転倒、不意の転倒などで転んだ経験のある方は、自分でなんとかしようとしても限界があります。
はばからずに、ぜひお気軽に直接お話を聞かせてください。
美骨整復くるみの実代表 谷崎政一郎